居住者インタビュー④

居住者インタビュー④

自然農法ができる暮らしを求めて名倉へ。元料理人夫婦の挑戦。

プロフィール

お名前:今 吉司さん
      千裕さん
移住地:名倉地区(Iターン)

前職は飲食業に就いていたお二人。田舎暮らしに関心があった千裕さんの提案で、東郷町から設楽町名倉に移住してこられました。自宅前の土地に田畑を耕し、肥料や農薬を使わない自然農法で野菜や米を育てています。

どんな経緯で田舎暮らしを選択したのですか?

千裕さん:大きなキッカケとなったのは”私のオシ”です。農薬や肥料を使わずに作物を育てる自然農法に関心がありました。どうせやるなら思い切って田舎暮らしして、本格的に取り組んでみたくって。それで夫に提案したんです。

吉司さん:当時はホテルのレストランでパティシエとして働いていたのですが、その生活が変わるなんて考えたこともありませんでした。突然田舎暮らししようと言われても、あまりイメージが沸かなくて。でも、その話をするときの彼女がとっても楽しそうだったんですよ。その笑顔に引っ張られちゃって、「じゃあやってみようか」と。

千裕さん:今振り返ったらすごい勢いだね(笑)。

自然農法できる場所であれば他にもたくさんありますよね。なぜ設楽・名倉へ?

千裕さん:ひとことで言えば”ご縁”です。

吉司さん:「農地付き物件」を条件に、岐阜県の恵那や岩村……いろんな所に見に行きました。奥三河も候補に入っていて、たまたま名倉の不動産屋を見つけたので設楽町の物件を案内してもらっていたんです。ただピンとくる物件が無く、もう帰ろうかというときでした。妻が「自然農法に興味があって」と不動産屋の方に話したところ、「それなら会わせたい人がいる」と。

千裕さん:そこで紹介してもらったのが、当時この家にお一人で住んでいたAさんです。私はなるべく化学製品を使わない、地球に還る暮らしをしたくて、自然農法に挑戦したいと話したらその方が「やり方教えたる」と。しかもガスを通さずに薪を焚いて生活されていたんです。それを聞いたらもうワクワクが止まらなくって、私もやってみたい! と話すうちにAさんとすっかり意気投合して。高齢だったので家と土地を誰かに譲りたいと考えていたようで、私たちが使わせてただけることになりました。

吉司さん::引っ越しもして、さあこれから新しい生活を始めようというときに、Aさんが病気で亡くなってしまったんです。

千裕さん:Aさんの人柄に惹かれて名倉に来たので、とても残念でした。でも悲しんでばかりじゃ前に進めませんから。私たちにできるのは遺してくださった家や暮らしを大切に引き継ぐこと。初めての田舎暮らしに悪戦苦闘しているのを、きっと今もどこかで笑いながら見守ってくれているはずです。

薪焚き生活に自然農法。ハイレベルな田舎暮らしがスタートしたのですね。

吉司さん::思っていたよりずっと大変です。まずは農作業ですね。米のほかに山芋・里芋・大根・春菊・白菜・トマト……いろいろ育てています。

千裕さん:米作りでは機械を使っていません。すべて手植え・手刈りです。後半は鎌の重みで手がプルプルしてくるんですよ。刈った稲は束にして天日干しするのですが、稲束も意外と重くって、足腰が相当鍛えられてる気がしますね。

吉司さん:僕は日中は近所の福祉施設に勤務しているので、前後の時間で農作業しています。体力的には前職時代より大変ですね。夏の暑いときも冬の寒いときも作業しなきゃいけませんから。いざやってみてその辛さを実感しているところです。僕たちが作業しているとフラッと近所の方が寄ってきて、「こうすると良いよ」ってレクチャーしてくださることがあるんです。田舎暮らし初心者にとってとても心強いです。

千裕さん:「名倉を元気にする会」の金田さんとか(写真右)。

吉司さん:本当にお世話になってるよね。自然農法で育てると初めは失敗するケースが多いんですが、幸運なことに、私達は1年目から豊作。「わからないことは何でも聞いて」と言ってくださるみなさんのおかげです。金田さんはお風呂を沸かすのに必要な薪もおすそわけしてくださるんです。

千裕さん:役場に無償の薪割り機があるので、ゆずっていただいた薪はそこで割っています。

千裕さんにとっては念願の田舎暮らし。吉司さんはいかがですか?

吉司さん:田舎暮らしとはいえ、ガスまで無いのは僕からすると「ちょっと待った!」って感じだったんです。だって帰宅してからお風呂を沸かすのに1時間半ですよ。でも思いのほか妻の押しが強かった(笑)。

千裕さん:ちょっと強引だった?(笑)。でもどうしても挑戦してみたかったんです。

吉司さん:妻のおかげで新しい世界を見れてると思えば、まあ良いかなって。薪を焚いて沸かしたお風呂って最高に気持ち良いということも知れましたし。

千裕さん:下水は土中の微生物に分解してもらう「ニイミ式浄化法」を用いて処理しています。生活水は近くの井戸から。必要最低限の電気は通っているので、組み上げポンプを使っています。

吉司さん:不便だけど、そこに惹かれてくのかな。ガス無しの薪生活も、農作業も。名倉で暮らし始めてから、朝早く起きることが気持ち良いと感じるようになりました。起きてすぐ、自分たちの米を土鍋で炊くんです。それが楽しみで。

千裕さん:夫は嫌いな野菜が多かったんですが、ここに来て好きになったみたいで。料理人なのにね。

吉司さん:苦手だって言ってるのに、奥さまが食卓に出してくるんですよ(笑)。最初は嫌々食べていたはずが、気づいたら「あれ? 美味しいぞ」と。採れたての野菜の美味しさを知ってしまってからはもう、ごちそうですね。

今後叶えたい夢はありますか?

吉司さん:田んぼをもっと広げたいです。僕たちお米が大好きでよく食べるので、今の量じゃ消費量に追いつかないなと思って。あとは、いつかベーカリーを開業したいと考えています。

千裕さん:うちで採れた野菜をたっぷり詰めた、米粉の惣菜パンとかね。ふたりとも飲食業に就いていたので、その経験をうまく生かしていけたらと考えています。私は和食、夫はイタリアンやスイーツが得意なので、二人のアイデアを組み合わせれば、面白い商品ができるんじゃないかなと思います。

吉司さん:パン屋開業が名倉の方々への恩返しにもなれたら嬉しいです。僕たち2人の田舎暮らしデビューを支えてくださった人へのお礼です。妻に連れてこられて始まった田舎暮らしですが、これまで思いもしなかった方向に人生が進んでいますね。未知の世界に触れたことで、視界が広く開けた気がするんです。そのきっかけをくれた彼女にも「ありがとう。いつまでも笑顔でいてください」と伝えたいです。